「鬼に訊け」

法隆寺の昭和の大修理、薬師寺の伽藍復興にも尽力した
宮大工・西岡常一さんのインタビューをまとめたビデオを
新たな証言を加えて再編集したのがこの映画だ。
西岡常一さんについては、『木に学べ』(小学館文庫)などの
本をいくつか読んで知っていたので、今回、新たなドキュメンタリーと
してまとめられたということで見に行った。
西岡氏の師匠は祖父だったという。
祖父は西岡氏を農学校へ通わせるように主張したらしい。
「木を知るには土を知らなあかん」からだという。
「それが正解だった」と西岡氏はいう。
他にも印象的な、彼の流儀がある。
いくつか紹介しよう。


「木を買うな、山を買え」
これは薬師寺の伽藍再建のとき、杉の大木が日本で調達できないため、
台湾で買いつけようとしたときのこと。
台湾の山へ実際に4度も入って、山を吟味した上で実際に見たうえで
伐採する木を選んだ。


「木は植わっていた方位で使え」
南に植わっていた木は、建物を建てる時も南側の柱として使うのが鉄則。
陽の当たり加減、湿気の状態など、植わっていた状態と同じ状態で
使うと木が長持ちするから。


「木を道具に合わせるな。道具を木に合わせろ」
道具は機能を満たしてこその道具であって、まず木ありき。
道具に木を合わせようとすると失敗する。


このように物事の本質を捉えて仕事に反映するやり方は、
どんな仕事にも応用できる真理であると思う。
「大工の鬼」は、「仕事の鬼」であったわけだ。
鬼とはいえ、物腰は非常に柔らかく、ユーモアを交えた語り口は
技術だけの人ではない魅力を感じさせる。
彼の著書もぜひお勧めします。