あのお店の人はなぜ閉じ込められたか

家族4人で、車で出かけた日のこと。
最近は東京郊外の自宅周辺でも店じまいしたガソリンスタンドを
ちらほら見つけるようになった。
それを見つけた3歳の長女がいう。
「あれ〜、あのお店の人、なんで閉じ込められちゃったの?」
店じまいしたガソリンスタンドでは、不法駐車されないように
柵が設置されてある。動物園で柵に入れられた動物を見ている長女は、
「店の人が閉じ込められている! 大変なことである!」
と受け取ったようなのだ。思わずニヤリとした。
「あれは、お店をおしまいにしたんだよ」
「なんでぇ?」
ガソリンスタンドが閉店しなければならなくなった理由を
本当に説明するにはちょっとした経済学の知識がいる。
ガソリンそのものは他店と品質を差別化することはできず、
客はどこで買っても同じだ。
仕入れ値も同じだから価格差もつけようがない。
その上で他店と勝負するには、ガソリン価格以外の部分、
たとえばサービスで勝負するしかない。
しかも、最近はセルフのスタンドが増えてきているから、
人件費をいかに効率化するかで、生き残れるスタンドと
生き残れないスタンドが出てくる。
さて、これを3歳児にわかるように説明するにはどうするか。
ライター稼業で培ったノウハウが試される場面だ。
「たくさんゼリーがあっても、おとうさんとかママとかに分けると
ひとりが食べられるゼリーは減るよね? それと同じで、
ガソリンを売る店がたくさんできると、
ひとつの店に来るお客さんが減るんだ。
お客さんが減ると、少ししか売れなくなるでしょう。
そうなると、お金が入ってこなくなって、やめるしかなくなるんだよ」
間違ってはいないと思う。
過当競争の原理をできるだけ簡単にしたつもりだった。
「うん、うん」とあいづちをうつからわかったのかと思いきや、
「でも、なんで閉じ込められちゃったの?」
といわれたときにはズッコけた。
池上彰氏になるにはまだまだ修行が必要のようだ。