見事な交渉術

母は強しというが、この人は最初から強かったのか、
妊娠して強くなったのか。
私がいつも乗る電車は弱冷房車なのだが、いつもこの車両に乗ってくる
妊婦さんがいて、なかなか感心な人なのだ。
毎回、車両に乗るやいなや、優先席に直行し、席に座っている人が
おばさんであろうがおじさんであろうが、若者であろうとなかろうと、
目についた最初の(であろう)人に、
「すみません、妊婦なので譲っていただけますか?」と交渉したのである。
それが毎日なのだ。
もちろん、みんな「ああ、どうぞどうぞ」と快く(かどうかわからないが)
席を譲っている。
なかなかできることではない。感服した。
妊婦というのはお腹が小さいときほど気をつけなければならないのに、
逆に周囲からは気づかれにくい。
最近は妊婦マークをつけている人もいるが、つけない人もいる。
この妊婦には、「気後れしてなんかいられない。この赤ちゃんを守るのは
私しかいないんだ」という強い意志が感じられた。
なかなかできることではないことを承知でいうが、
世の中の多くの人はできたら席を譲ってあげたいと思っているはずなので、
「電車に乗ったらすぐに替わってもらうようにお願いする」
というルールを、自分のなかにつくってしまえば、
あれこれ考えることもないのではないか。
実際、この妊婦は堂々としたもので、電車が走り始める前にはもう
席に座っている。エライと思う。
一方で、私たち男はもっと気づいてあげるべきだろう。
そうすれば、妊婦が勇気を振り絞る必要はないのだから。