「150キロの球を打つ」の真偽

朝のテレビ番組の映像に、私のつぶらな瞳は釘付けになった。
「速読で150キロの球が打てる?!」という実証実験をやっていた。
45分の速読訓練をした人が、バッティングセンターの打席に立つ。
「んなわきゃ、なかろう」と高をくくりながら見ていた。
だが、なんと、まったく野球経験のない人が
ボールをバットに当てている。それも数球から数十球のうちに!
「なぜだっ! そんなことが許されていいのかっ!」
愕然とし、私の頭はパニックになった。
ならば、あの炎天下での私たちの練習はなんだったのか。
私は大学まで野球を続けたが、140キロを出す投手など
めったにいない。それほど140キロを出すのは難しい。
つまり、140キロを出すことができれば、
かなりの好投手であり、150キロはもうとんでもない世界である。
私の場合、現役時代でも140キロを当てるのも難しいだろう。
さらに、バッティングセンターの150キロはタイミングが
とりずらく、普段、行かない人には人が投げるのを打つよりも
はるかに難しいはずなのだ。
それを、未経験者が、150キロという速球を、しかもバッティング
センターで、バットに当てるということが現実に起こったのだ!
速読をすることで動体視力が上がることが
不可能を可能にした原理なのだろうが、わからないことは多い。
普通、どんなに優れた野球選手でもバットがボールに当る瞬間を見る
ことはできない。バッターはボールの軌道を推測し、
「このへんを振ったら当るだろう」という意識でバットを出す。
悪く言えば、最後は勘で打っている。だからタイミングが重要なのだ。
ところが、素人さんたちの打撃を見ていると、
タイミングの取り方はめちゃくちゃだ。未経験者だから無理もない。
タイミングをとるうんぬんではなく、放たれたボールの軌道を
見極めてから振り出し、バットにボールを当てている。
未経験者は経験者のように、狙ったところにバットを出すことが
できないはず。となると、彼らはバットとボールが当たる
インパクトの直前までボールを見ている、見ていられることになる。
これははっきりいってプロの選手でも難しい芸当だ。
なぜこんなことが可能なのか。
人間の認知の能力は、これほど高度なものなのか。
これだけ正確に認知できるのであれば、当然、変化球にも対応できる。
野球の練習より、速読の訓練をしたほうがいいということになる。
にわかには信じがたいのだが、結果が出ているから考えてしまう。
これをどう理解したらいいのか。
しばらく考え込んでしまいそうだ……。