あげる流儀

先日、電車で席を譲ったおばちゃんがどら焼きをくれた。
そのどら焼きの渡し方が、いかにも中高年のご婦人らしかった。
どうやったか?
私のジャケットのポケットにねじ込んだのだ。
手渡ししようとすると、「いやいや、けっこうです」
「どうぞどうぞ」みたいな、不毛なやりとりが行なれる。
それをショートカットする、とてもスマートなやり方だ。
おばちゃんの「あげるときの流儀」なのだろう。
人にあげ慣れている感じがした。
だから、私も苦笑いしながら、「ありがとうございます」と言えて、
不毛なやりとりをすることなく、その場をやりすごすことができた。
私もこの「ねじ込み作戦」をやることがある。
相手が同じ年代なのに、飲食代をどうしても奢るといってきかないとき
などは1000円札をポケットにねじ込むことがたまにある。
「いいよいいよ」は、それほど親しくない人とのときは、
本音がどっちなのかわからないときがある。
でも本気でなさそうなときは、そんなことをやってみる。
ポケットねじ込み作戦は、やられたほうは断りにくいのである。
ともあれ、どら焼きは翌日に食べた。
なかなかおいしかった。