彼は来なかった

私はお酒があまり飲めない。
でも酒席には極力参加する。
それは仕事では得られない刺激を得るから。


友人二人と飲みにいった。
試験勉強があったためしばらく封印していたが、やっと解禁である。
この日はもうひとり友人を呼んでいた。
そろそろ無職期間が1年になろうとする友人だ。
来られない理由は「行けない」ただそれだけだという。
その友人には小さな子どもがおり、奥さんは働いている。
本人が「子どもをほったらかして飲みになんかいけない」と考えたのか、
奥さんから無言のプレッシャーを感じたのかは知らない。
どうやら電話もつながりにくくなっているという。
ぼくはあえて連絡を取らなかった。
彼が来たら、どういうつもりなのか聞きたかった。
こういうとき、どうしていいものか悩む。
一度、「おまえ、何やってんの? 働けよ」といってやるのが本当の友だち
かもしれないのだが、あまり追いつめるのもかわいそうになる。
今回は問い詰めるでもなく、ほかのみんなも七転八倒して
仕事に取り組んでいることを感じてほしかった。
直接言われなくても、「みんな苦労してる。お前もがんばってみたら?」と
いうメッセージを受け取ってほしかった。
しかし、彼は来なかった。
来にくい気持ちもわかる。子の世話もあろう。
でもやっぱり外に出ないとね。
飲んで刺激を受ける効果ってあると思う。
「おれもがんばらなければ」と思うことがよくある。
少なくともぼくはそういう飲み方をしてきた。
仕事のグチなんて、まったく話題にならない。


もちろん、子どもと過ごすことで得る刺激もある。
要はそのバランスだ。
今、彼は子どもとべったり過ごしているはずだから、
親しい仲間と一時、盃を交わすぐらいはできたのではないか
と思えてならない。
「しんどいのは、あなただけじゃない」というのも
励ましになると思うんだけどなあ。