つみきのいえ

おくりびと」とともにオスカー像を手にしたもうひとつの作品。
つみきのいえ」を見てみた。
ストーリーはなんということはない。
水面が上昇して沈みそうになる自宅を、まるでつみきを積み上げるように
レンガで上に建て増ししていく、ひとりのおじいさんの話だ。
おじいさんはある日、自慢のパイプを階下の水の中に落としてしまう。
おじいさんは機材を背負って、スキューバダイビングのように
階下に潜って取りに行く。そこはかつて家族と暮らした場所だった。
潜りながら、おじいさんはかつての暮らしを回想する。
それだけの話である。


この短編映画、監督の加藤久仁生さんが、会社からの10分で泣ける話を
という要望のもと、16人のスタッフと8か月かけてつくったという。
時間の経過と場所の変化をうまく組み合わせて、
新しい記憶から順に過去にさかのぼっていくという構成だ。
おばあさんとの思い出、娘との思い出が映し出されていく。
どこにでもある一生なのだろうけど、
誰もいない物悲しさが、海の底に沈んでしまっているという
シチュエーションとあいまって強調される。
彼の人生は、彼がどんどん建て増しした家そのものだった。
彼がいまどういう気持ちで、レンガを積んでいるのかわからない。
セリフがひとこともないからだ。
独居老人の生活を思った。
さびしい日々である。
でも、なぜか悲しいとかつらいといった雰囲気ではない。
さびしいことは、必ずしも悲しくないし、つらくない。


たぶん、このおじいさんは一つひとつ着実に確実に人生を歩んだ。
人生をともにする伴侶に遭い、子どもをもうけて嫁に出し、
伴侶の最後も看取った。
レンガを一個一個積むような、質素で堅実な、そして豊かな人生だった。


ショートムービーにもこんないい作品があるとは知らなかった。
観てよかった。本当に素晴らしい作品だった。