手袋のおもいで

これは前にも書いたことがあったかもしれない。
寒さに耐えかねて、毎日、手袋とマフラーをして家と駅を
自転車で往復している。
夜の寒さは本当に身にしみて寒い。
街灯のない通りはいっそう寒い。
自転車で通うのは大学生以来で、手袋をして通うのは
たぶん初めてのことだ。


高校生のとき、私の兄と賭けをしたことがある。
私が強がって、12月の中ごろ、
「この冬の寒さのピークはいまごろだろうから、
今年は手袋をしなくても大丈夫だなあ」
すると、彼は、
「ぜってーだな? 手袋したら1000円払えよ」
と子供みたいなことを言うのである。
「おお、ええよ。じゃあ手袋しないで通したら1000円くれよ」
話はまとまり、暖かくなってきた3月中旬に負けを認めた兄は
アルバイトで稼いだお金から、しぶしぶぼくに1000円を払った。


実はそれまでも手袋などしたことはなかった。
通学で30分以上をかけて自転車で通っていた中学生時代も
手袋などしたことはなかった。
彼はそれを忘れていたか、知らなかったのだ。
1000円は何に使ったか忘れた。
たぶん、ロクなものを買わなかった。
手袋を買ったら、いい皮肉になっただろうに。惜しい。


岡山の冬は東京に比べて暖かいし、
ぼくが年をとったからもう手袋をしてもいいだろう。
もうあんな賭けはやらない。
1000円では割りに合わないから。