「自然を守れ」はどこのこと?

「自然を守れ」というが、単に木を切ってはいけないというのではなく、
日本と世界の事情を整理しておくことが大切だと思う。
よくいうように、世界の森林は急速に失われている。
その原因は、アフリカでの人口爆発により、燃料として薪炭
得るために木が切られていること。
また、アフリカや南アメリカでの焼畑農業も原因とされている。
アマゾンなどでは人々が生活の糧を得るための伐採(違法伐採含む)が
行われている。
こういう理由で世界的に見れば、森林は失われている。


しかし、日本の事情はちょっと異なっている。
本の森林率は約66%で、ここ20年ほど変わっていない。
緑が減ったように思えるのは、都市部の野山が開発されているからで、
それと同等ぐらいに植林が進んでいるので日本全体としては、
森林は減っていない。
ただ、日本の森林は40%強が人工林なのだが、この人工林は
荒れる傾向にある。
(ここでいう「荒れる」とは、人工林が管理されない状態をいう)
というのも、外国産の木材が安く輸入されるようになったので、
日本の林業が衰退していき、管理が行き届かなくなったから。


外国の木材が安く輸入できるようになったが、その中に違法伐採分が
含まれていたかもしれないし、これからもそういうことがあるかもしれない。
となると、世界の森林を守るためにも、日本の人工林を有効活用し、
世界からの木材の輸入を抑えるようにするのがいいと思う。


ところが、そこは話が簡単ではなくて、発展途上国では木材の輸出が
貴重な外貨獲得の手段になっているし、木材の内外価格差が
是正されなければ、資本主義の論理からいって、値段の高い日本の人工林を
買って使うということは難しい。
要するに、農業とまったく同じことが起こっているわけだ。


結局、農業と同じように、日本の林業も効率的な経営をして、
輸入材との価格競争に、勝たないまでも伍していくことが求められる。
もしそれほどの木材の需要が国内にないのであれば、
人工林(ほとんどが針葉樹)はどんぐりの木(広葉樹)などで構成する森に
していくべきだ(鎮守の森。それを提唱しているのが、横浜国立大学
名誉教授の宮脇昭先生である)。
そうすることによって、洪水を防いだり、きれいな河川をつくり、
きれいな海をつくり、魚介類も育てる。


「木を切るな」という世界で見たエコの論理を日本にも安易に
当てはめてしまわないように整理しておきたい。


それにしても思うのは、
衣食住をまかなう第一次産業(主に農業、林業、漁業)
の産物に対して、私たちは国内の生産者に適切な対価を支払うべきで、
そうでないとあとで苦しむのは自分たちということになりかねない
ということ。
私たちは食べものが安かったり、住む家が安いことはいいことだと
考えてきたが、本当はそういうところにこそお金をかけるべきなのだ。


本当に意味のあるお金の使い方について考えさせられる。