出口のない海

正直いって、ここまでつらく悲しい映画は初めてです。
(ネタバレがあります)
太平洋戦争末期、人間魚雷「回天」と呼ばれた海の特攻兵器に
乗り込んだ若者たちの話です。
主人公は市川海老蔵さんで、彼が演じるのが明治大学で投手だった
並木浩二という人。こういう人が実際にいたんでしょうか?
彼らが乗り込んだ人間魚雷「回天」は、脱出装置がなく、
後進もできない乗り物。出撃することはそのまま「死」を意味する。
潜水艦にこの回天を4隻積むのですが、機雷で一隻がやられる。
そこで「おれの舟が……」と泣きじゃくる回天の乗組員。
あとの3隻が出撃を待つ。敵は輸送船一隻。
しかし、最初の回天は不調で出撃できず、別の回天が出撃する。
4隻の回天に乗るのは戦友同士です。
「おれが行ってたら、あいつは死ななかった」と考える。
「なんで生きて帰ってきたんだ」と言われるなら、
「死んで軍神になりたい」と考える。
でも、また別の回天が不調に。
「俺が死ににいく」といいながら、回天が不調になるとホッとする。
口では「お国のためなら散って本望」といいながら、
心底死にたくないと考えている。
当たり前だけど、みんながお国のためと思って死んだわけではなかった。
そうした彼らの複雑な心情がよく描かれていると思った。
後半30分はもう泣きっぱなし。感動するとかじゃなくて、
悲しくて、苦しくて、つらくて泣いてしまう。
彼が野球を捨てて、戦地に赴くシーンもぼく的にアツくなった。
「お前の野球はそんなものかッ!」ってチームメイトとやりあう。
戦争か野球かなんて、比べようもないのだけど、赤紙が来る前に志願した
のは彼らなりのプライドだったのか、それとも……。
そして、なんでまた「回天」に自ら志願するのか。
そういう心情を、わからないまでも想像してみなければならないと思った。
主人公・並木浩二が、回天に乗る任務について、自分なりに
解釈している点を語ったセリフがあった。
無理やり自分で理由づけしなくてはやりきれないという
任務の重さがそこに見えた気がした。
彼の最期はめちゃくちゃリアルだなと思った。
敵艦を沈めることもできず散っていくのだから、さぞ無念だっただろう。
彼の最期が皮肉にも、回天という兵器をいっそう不毛なものとして
際立たせることに一役買っていたという気がする。
ぼくとしては、この手の映画は演出とか、演者の出来は関係ありません。
なんでこういう映画をつくろうと思ったのか、
この映画で言いたかったことは何か。
そういうことを考えられただけで、観た意味があった。
この映画を戦争賛美だと思って観ないでいた人は、
とにかく見てみることをお勧めします。