クラッシュ

「本当はぶつかって、何かを実感したいのさ」
冒頭のセリフだけで、観ようって思えた。
人種差別の横行する(?)ロサンゼルスの街で繰り広げられる
普通の人々の、普通の生活のお話です。
みんな普通の人なんだけど、社会が「そういうふうに」なっているからか、
みんなが何かにこわがっている。
みんなが不安を感じている。
悪人と思える人も善人と思える人も、誰も完璧な人ではありえず、
差別におびえ、銃の恐怖におののいているんです。
観ていて、どうにもならない泥沼という気がしました。
誰にでも人をさげすむ心がある、だけれどもそうした心を自覚して
その上でどのように生きていくかを模索したほうが問題の解決には
早いのではないかと思った。
誰しも「差別はよくない」と思うんですが、自分が差別されたのと
同じようなことを別の人にやっていたり、自分が差別されたのでは
と考えて卑屈になってしまって、正常な人間関係を結べなかったり
ということがある。
一筋縄ではいかない現実がこの映画にはありました。
この映画をつくった人の意図はなんだかわかりませんが、
かつて黒澤明氏がこう言っていたのを思い出しました。
「自分も苦しいんだっていうことを(映画で)そのまま見せれば、
お客はすっと理解する」
この映画をつくった人もなにか苦しんだ経験があるのだろうし、
そこで考えた「差別」の考察をそのまま映画にしたのでは
なかったか。
ひとつ言えるのは、高みから「人種差別」っていけないでしょ?と
いうような映画ではないということ。
いくつかのお話を、ひとつのテーマに沿って組み立てる構成が
なかなか秀逸でありました。