タクシー運転手の仕事術

わずか10分の間の「取材」だった。
乗車時間はたったそれだけでも、なかなか興味深い内容であった。
この日、吉祥寺駅周辺で飲み、私は友人2人と
終電で国分寺駅まで行ったあと、タクシーに3人乗り込んで、
それぞれの自宅まで帰ったのです。
一番遠かった私が家につくまで、運転手さんは意気揚々と話しだした。
「今日は終電が遅れたんじゃない?」
「ええ、遅れましたね」
「10分弱ぐらいでしょう?」
「そんなもんですね。そういうのは仲間内で情報が流れるのですか?」
「いや、私は個タク(個人タクシー)だからそういうのはない。
長年の経験からくる勘ですよ。おたくを乗せる前に国分寺駅に二人
乗せたんですがね、二人とも近場だったんですよ。それで、おたくらが
乗ったのは2500円ぐらいの距離でしょ。いいお客さんなわけだ。
終電のお客さんがだいたい遠いことが多いんですよ。
だから、あの時間だと終電が遅れたんだと思ってね」
「へ〜なるほど。」
「今日は熊谷まで行ったからね。チケットで。2万4000円ですよ」
「そりゃよかったですね(だから饒舌なのか)」
「熊谷まで行ったらね、その周辺でどこか終電がぶつからないかなって
考えるわけですよ。私が(運転手を)始めたころは先輩がそういうのを
教えてくれたですね。今なんてね、どの駅で終電が何時かって
全部覚えてますよ。今の若いのはそんなのしないけど」
終電の客が遠方になるのはわかるけど、乗せていった先で「どっか終電は
ないか」と探すっていうのは新鮮でした。
自宅に帰るのに空気を乗せるより、人を乗せたほうがいいに決まっている。
結局、自宅の前まで乗せてもらったので、料金は3050円になった。
しかし、サイフを見て「ん」に濁点がつく、
言葉ともつかぬため息がもれた。


「3040円しかねーじゃねーかッ!!」


「す、すいません。10円足りない……」
「いいよ、いいよ、勉強、勉強。おまけしとくよ」
となって、無事に無罪放免となったのでした。
ホントはあと6円あったんです。
でもどうしても6円出して
「これでカンベンして」
とは言えませんでした。
それやったら逆効果だと思ったので。
運転手さん、ありがと。
いや、熊谷まで行ったお客さん、ありがと。