ミュンヘン・オリンピック中の選手宿舎内に
パレスチナのゲリラが潜入し、イスラエル選手11名を射殺した。
イスラエルは報復のために、密かに暗殺チームを編成して、
首謀者全員の殺害を計画するというのが話の筋。
パレスチナとイスラエルの問題はもう改めて語るまでもない。
幾度も和平へのロードマップが策定され、反故にされてきた。
かの地の分捕り合戦で、おびただしい血が流れたが、
この映画はそのほんの一部を切り取ったもの。
そうした大きな背景があるために、
主人公の暗殺者・アバナーは苦悩する。
自身にも家族があるが、イスラエル人、もっといえばユダヤ人としての
血も捨てられない。
HOMEとは家庭のことか? 故郷のことか? 国のことか?
自分の人生はそのこととどう関係してくるのか。
私たち日本人には想像を絶する世界です。
なにしろ報復につぐ報復だからきりがない。
暗殺者集団も暗殺される恐怖におののくのです。
鑑賞後はひたすらやるせなさしか感じません。
しかし、国というか、政治家というのは、こういうとき必ず暗殺者
集団と接触しない。いないものとして暗殺集団を組織する。
国を挙げて暗殺を行っていたとなれば、威信に関わるからでしょう。
危ない目に合うのはいつも下っ端です。
下っ端と自覚してイデオロギーを持たなければ、暗殺を機械的にできる。
でもそれができないのが人間でしょう。
HOMEって何って考えてしまう。そして葛藤し、苦悩する。
苦悩し、よしんば結論を得たところで、それは暗殺を自己の中で
正当化する理由付けにしかならない。
それがいっそうやりきれなさを生む原因なのだと感じた。