リトル・ミス・サンシャイン

リトル・ミス・サンシャイン movie

家族愛がテーマの映画は数あれど、
ぼくの中では最も印象に残る映画でした。
父、母、高校生の息子、小学校低学年の娘、おじいさんという
フーヴァー 一家に、自殺未遂をした、「自称プルースト研究の
第一人者」である母の弟が転がりこんでくる。
父は金持ちになるためのセミナーの営業をするが、本人は貧乏。
息子はニーチェにかぶれて、ジェット機パイロットになるまでは
一言も口をきかないとだんまりを決め込む。
おじいさんはドラッグ中毒の変人。
夫婦喧嘩ばかりで争いごとの絶えない家族に、唯一明るく生きるのが
娘だけ。その娘が「リトル・ミス・サンシャイン」という子どもの
美人コンテストに出られることになる。
そこで一家はおんぼろバンに乗って、一泊旅行を敢行する。
バラバラになった家族が、娘をコンテストに出させてやりたい一心で
苦悩し、葛藤し、奮起する。
しだいに家族の心はひとつになっていく。
「スーパーマン」など大作が相次いだ2006年夏のハリウッドで、
低予算ながらも激賞されたのがこの作品だ。
ある評論家がこの映画を「アメリカ自体が巨大な美人コンテスト」と
評したが、なかなか言い得て妙である。
コンテストの勝者のみが勝ち組とされるのはアメリカだけならず、
日本でも同じようなもの。
でも、別の価値観も必要であることを考えさせられる。
外から見れば、確かにこの一家は負け組かもしれない。
けれども、決して家族が不幸そうではないところに、勝ち負けの二元論
では割り切れないものがある。
この映画で印象に残ったセリフがふたつある。
「敗者とは、負けることをおそれて挑戦もしない者のこと」
プルーストは晩年になって言った。『悩み苦しんだ時期こそが自分らしさ
が形成された時期だった。幸せな時期は学ぼうとしないから無駄』だとさ」
挑戦し、負けを経験して、悩み苦しんだ時期こそ
大事なものが形作られる大切な時期なのだとしたら、
フーヴァー 一家にとってこの旅行こそがまさにそれだった。
家族愛がしっとり描かれているというよりは、
家族がチームとなって結束していく様子は、スポーツものに通じる。
この映画を見たら、「苦難もまんざら悪いことばかりではないな」
と思えるに違いない。