映画『カポーティ』

カポーティ movie

オードリー・ヘップバーンの主演映画『ティファニーで朝食を』の原作者、
トルーマン・カポーティの一時代を描いた映画。
カポーティは世界初の「ノンフィクション・ノベル」というジャンルを
『冷血』という作品によって生み出す。
『冷血』はアメリカの静かな片田舎で起こった一家4人の惨殺事件を
扱ったもので、ノンフィクションの手法を借りながらも細部に
渡っては小説のようなテイストを取り入れている。
この『冷血』という作品は日本のノンフィクション作家の本を
読んでいるとたびたび登場する。
いつか読んでみたいと思って本を買って、それきり棚につっこんだ
ままほったらかしになっていたのだが、カポーティの生涯が映画化
されるというので、を取り出して読み始めた。
『冷血』を半分読んだところで、映画を見に行った。
映画はカポーティが『冷血』を書き上げる過程を描く。
(以下、ネタバレがありますのでご注意を!)
カポーティは事件を扱う刑事に会い、被害者の友人に会い、
犯人とも面会を果たす。
2人組の犯人の一人であるペリーと面会を重ね、生い立ちを知るうちに
心を通わせるようになる。
カポーティは母親がアルコール依存症育児放棄された経験がある。
愛情を注がれない不遇な家庭環境がペリーと似通っていた。
2人の心の底にあるのは「尊重されたい」という強い思い。
その思いは、ペリーの場合は犯罪になり、カポーティの場合は作品を
書き上げる意欲と、社交界でのから騒ぎになった。
カポーティは、ペリーの話を最後まで聞くまでは
「死刑になってもらっては困る」と有能な弁護士を立てたり、死刑の
先延ばしのために奔走する。ペリーはカポーティを唯一の友人と
認め、信頼を寄せる。
しかし、ほぼ本が完成してからカポーティはしだいにペリーの死刑を
望むようになっていく。まだペリーはカポーティを信頼しきっている。
カポーティの意に反して死刑はどんどん延期になる。
「あんたのおかげだ」と喜ぶペリー。
「本の結末が書けない。これは拷問だ」と徐々に精神に異常をきたす
ようになり、酒におぼれていくカポーティ
そして、カポーティの「念願かなって」死刑が執行されるという日、
彼はペリーを見舞いに訪れる。
そこでカポーティは涙を流すのだ。
このシーンが最も印象に残った。
あの涙はなんだったのか。
「本がやっと完成できるという安堵感」からか、それとも単に
「心を通わせた人間が死ぬという悲しさ」からか、それとも
「ペリーの死を望んだという自己嫌悪」からか、
「そんな自分を最後まで信じたペリーへの哀れみ」からなのか。
そんなものが全部ないまぜになった涙だったのか。
本人にも説明のできない涙だったのではないだろうか。
この後、カポーティは一冊も本を完成させることができず、
アルコール中毒となって失意のうちに死んだ。
社交界を揶揄した次作は友人らの反感を買い、未完に終わった。
他人から愛されたいと願い、いつも話の輪の中心にいることでしか
生きる実感を得られなかった男の生き様を理解するには
2時間では短すぎた。
『冷血』を読み終わるころには、それがちょっとでもわかるのだろうか。