「マネーボール」

アメリカのプロ野球MLBを舞台に、敏腕GMが野球の既成概念を
打ち破り、新たな指針によるチーム作りを進める映画です。
もともとノンフィクションの書籍が原作となっているので、
シリアスで、現実的な内容になっています。
映画「メジャリーグ」シリーズとは対照的な内容で、
時代は変わったなあという印象です。
(ネタバレがありますので、注意してください)
主人公ビリービーンは、有望な選手でしたが、泣かず飛ばずで
選手生命を終えます。彼がアスレチックスという貧乏球団のGMに
就任して、たぶん数年が経ったころのお話です。
チームからは主力選手2人が抜けます。
高騰する給料を払えないからです。
ビリーはその2人の穴埋めをしようとしますが、
そこで新しい指針を基準に格安の選手を発掘するのです。
その新しい指針とは、何か。
打率やホームラン数がチームの勝利とは相関関係が低いことを見つけ、
出塁率長打率が、相関関係が高いことを見つけたのです。
その理論の元は、ある食品工場の夜勤警備員が生み出したものでした。


まず映画の感想。
ひさしぶりにいい映画見たという感じです。
主人公たちが成功を手にするまでの苦悩、葛藤が過不足なく描かれていて、
すっきりとわかりやすくストーリーが進行していきます。
ビリーが新しい選手評価の基準を採用するまでがあっさりとしすぎな
感じはありましたが、このGMの熱さはぐっと来るものがあります。
次に、この新しい選手評価の基準について。
ビリーはいう。
出塁率のいいやつを使え。守備なんか関係ない」
「バントはするな。むざむざアウトひとつくれてやることはない。
反対に、相手がバントしてきたら、2塁になんか投げるな。
確実に1塁でアウトを取れ」
これはすべて野球の定石(セオリー)に反する言葉です。
彼が採用した理論はセイバーメトリクスというらしいけれど、
今の日本球界でも総スカンでしょう。
野球をやったこともないどこぞのGMみたいな人なら、
やるかもしれないけど、野球をやってプロにもなった人が
こういう理論を採用しようと決断できることがすごい。
当然、旧知のスカウト陣は反発し、辞めていく。
他球団が評価しない選手だから安い。
年棒の総額はトップのチームと10倍もの差がある。
それを埋めるには何か革新的な手法を使うしかなかったわけです。
実は本も映画もタイトルは「マネーボール」なのですが、
新しい選手の評価基準はマネーとはいっさい関係ないので、
みんながこの基準を採用すれば、この基準に合致する選手が
高学年棒になるだけの話で、核心は今までの選手の評価基準に
新しい風を吹き込んだことにあります。
さっきの打者の基準に加え、投手は野手の裏返しで、
四死球を出さないコントロールのよい投手がもっとも評価される。
で、ビリーもこういう意味のことをいいます。
「勝利なんか目じゃない。勝ったってみんなすぐに忘れる。
みんなが思っている常識を変えたいんだ。それこそが俺の望みだ」
つまり、野球のセオリーを根底から覆そうとしたわけです。
イノベーション(革新)です。
これって、「もしドラ」でも似たような話が出てきますよね。
野球というのは知りつくされていて、新しい理論なんかでてきっこない
そういう風潮に風穴を開けようとしたわけですよ。
古い価値観を打破できない老スカウトたちは、理解できないし、
自分の職を守ることに汲々としている。
そういう既得権益の人たちと対峙するやり方は、
まったくもってビジネスの話でもあるのです。
「失敗したら俺は高卒の44歳。雇ってくれるところなんかない」
と自ら言うプレッシャーの中で、シーズン序盤は大苦戦する。
20戦3勝17敗というひどい成績だった。
しかし、そこからビリーはめちゃくちゃな手に打って出る。
新人王候補を移籍させ、自分の推す選手を無理矢理出させる。
さらなる周囲の逆風のなか、ビリーはいう。
「本当に自分の信じていることを信じられるかだ」と。
既得権益を持つ者と対決し、果断にものごとを進めていく。
自分の信じたことを一心にやりぬく。
そういうこの人の気概にはとても感化された。
男の仕事ってこうありたい。かっこよすぎるぜ。


最後に、「マネーボール」理論について、元選手から見ると、
評価できる点とそうでない点があるので、それについて書く。
評価できる点は、「勝利のためには点を入れることが必要で、
それにはアウトにならないこと、つまり出塁率が最も重要で
あること」を見つけ出したところは大変おもしろい。
また、スカウトが「勘」に頼っている選手評価を
客観的な数字によって評価したこと。
スカウトの目を通せば、太っているとか、フォームが変とか、
メガネをかけているとか、彼女がブサイク(!)とか、
野球の実力とは関係ない事で評価されてしまうことがよくある。
評価できない点は、まあ、台詞の中だけだと思うけど、
「守備なんか関係ない。バントなんかするな」は違うと思う。
たぶん、このへんが最後のプレーオフで勝ちきれないところだと思うな。
総じて、とても興味深い理論なので、日本の球団でも採用してくれないか
と思ったりする。
この映画ではいいセリフがある。
「人は野球に夢を見る」
なるほど、貧乏球団が金持ち球団に勝利すれば、
いまセントラルパークで野宿している人たちも溜飲を下げるだろう。
とにかく、いろんな要素が二時間に詰まっていて、
本当にいい映画だった。
仕事をやる気になること間違いなし、である。