「じゃあね!」

20、21日に行った八ヶ岳での「大人の林間学校」では
行く口実が一つあった。
昨年、9月18日のブログに書いた「もう来ないんでしょ?」
書いた少年に会いにいくためだ。
当時、「来年小学一年生になる」というアイリッシュ・パブの
店主であるご夫妻のご子息のことだ。
あのとき店先で遊んだあと、私たちが
「また来るからな?」と言ったとき、
「もう来ないんでしょ?」と言ったあの少年だ。
詳しい経緯はブログの記事を読んでほしい。
「もう来ないんでしょ?」と言われ、切なくなった私たちは
「絶対にまた来ようね」とみんなで話し合っていた。彼との約束を
果たさなければならない。
そんなわけで、再度「大人の林間学校」を開校したわけだった。
20日の夜、トランプに熱狂しすぎて、お店に到着するのが
8時過ぎになってしまった。
お店に到着すると、お目当ての彼の姿が見えない。
「まあ、そのうち」と、私たち三人はカウンターに座った。
運転手(私です)はアイリッシュソーダ、他の連中はギネスに
舌鼓を打っていると、店のシェフでもあるお母様の姿が見えた。
「今日は、息子さんは?」と切り出し、前回ここに来たときの
話を少しさせていただいた。
どうやらおぼろげながらも覚えていただいていたようだ。
「その辺で遊んでいると思うんですが」とお母様が
おっしゃるので、しばらくだらだらと飲んでいると、
カウンター越しに少年の顔がひょっこり出てきた。
たぶん、お母様が促してくれたのではなかったか。
「おう、久しぶり! 去年の9月におっちゃんら来たの覚えてる?」
「うん、覚えてるよ!」
「外でサッカーしたよな? チェスとかさ?」
「うん、覚えてるよ。でも、ぼく8時半には寝ないといけないんだ」
という。
「じゃあね!」
そう言ったきり、店の奥に引っ込んでしまった。
私たちは笑った。
そんなもんだ、そんなもんだ。それでいいのだ。
私たちにとっては遠くに住む甥っ子のようなものであっても、
彼にとっては単なる客の一組でしかない。
彼が覚えていようが覚えていまいが、そんなことはどうでもいい。
「また来るからね」という大人の社交辞令が、たまに社交辞令で
なくなることがわかってくれたらそれでいい。
今回は私たちの心に引っかかっていた何かを
取り払いたかっただけなのだ。
それにしても今時8時半に寝るなんてすばらしい。
自分がそうだったから、子どもはそれぐらいに寝るのが当たり前。
そういう教育をしていることに、この店の夫妻の人柄が見られた。
それは、すべての席が埋まるほどだったこの日の店の繁盛ぶりにも
見て取れた。
大自然のもと、そうやって伸びやかに育った彼だからこそ、
私の心に何かを感じさせたのかもしれない。
アイリッシュソーダの味とともに、
また忘れられない思い出が一つできた旅だった。