「古い牛乳は前へ」をやめたスーパーに学ぶべき点 

スーパーに行くと、牛乳を売っていますね。
前に陳列されているものほど賞味期限が短い、つまり、古いものが
置いてあるところがあります。
これをイトーヨーカドーはもう何年も前にやめたそうです。
グループ会長の鈴木敏文氏の経営手法について書かれた本、
鈴木敏文の創造的破壊経営』(緒方知行著、小学館文庫)に
そうありました。
古いモノから売れるようにすれば、売れ残りのリスクを軽減できる。
でも、それは経営サイドの視点であって、消費者の視点ではない
というのです。
もっともな話です。
「売れ残りは自分でリスクを取れ」というのです。そのため、パートの
人にも発注を任せるそうです。
無味乾燥な仕事ではなく、責任のある仕事だから離職率も低い。
これはアメリカのビジネススクールの教材にも採用された話だという。
衣料品についてもそう。
「返品はしない。『売れ残ったら返品すればいい』という逃げ道を
つくっていては『どうやったら売れるか』を考えなくなる」
からだというのです。
さらに、「返品は誰も喜ばない。業者もすべて喜ぶような経営を
しなくてはいけない」といいます。
振り返って、出版業界を思う。
出版業界では、売れ残った本は出版社に返本される。
鈴木氏流に言えば、書店には「逃げ道」があるのだ。
本はいったん取次(本の問屋)に卸した時点で、冊数の満額の売上げが
上がるようになっている。そして、前に出した返本の代金と相殺して
出版社に売上金が入るようになっている。
これが出版不況になっても出版点数は増えていったカラクリだ。
出版社がなくならないのも、「血が巡っている限り、生き長らえる」
という業界のルールによるものだ。
売れ残りが返本できないようになれば、書店は血眼になって
売れる本を探し、売ろうとする努力をするだろう。
だが、書店がそのような覚悟で本を発注するようになれば、
出版社もおいそれとは本を出しにくくなる。
少なくとも粗製乱造は免れるはずだ。
それは「売れる本しか本屋にない」という状況を生み出すことに
つながるかもしれない危険性をはらんでいるから、難しい問題だ。
けれど、出版業界が、イトーヨーカドーのように厳しく
消費者の視点に立っているかは考えてみる余地がありそうだ。