水の中にもいる霊 

「霊魂を信じるか?」
居酒屋でたまに議題に上りますね。
結論から申しますと、私、完全に信じます。
それはもうまったく疑いのないまでに信じます。
自分が実際に見たものや経験したものしか信じないという
人がいますが、私は霊魂を見たことも、一緒にお話したことも
ありませんけども、信じています。
信じているというよりも、あってほしい、というような希望ですな。
先日、友人Fとその友人Aとで伊豆にダイビングに行ったときのこと。
Aさんが「水の中にもいるんだね」って言うんです。
「なにが?」って聞くと、霊がって言うんです。
赤い着物を着た女性の人だったというんです。
Aさんは子どものころからそういう不思議な能力があったという。
最初の霊体験はこういうものだった。
子どものころ、彼は、昔に旅館を営んでいた祖母の家に、母親と
出掛けた。母親はその日の昼過ぎには用事のため、祖母にAさんを託し、
先に帰ってしまった。
その日の深夜、小さかったAさんはトイレに起き出した。
だが、まだ小さいので誰かに付き添ってもらいたくてぐずぐすしていた。
すると、寝ていた部屋のふすまが開き、女の人が手招きする。
付き添われてAさんは用を足し、帰ってきたときには
もう誰もいなかった。
翌朝、祖母に「おかあさんはどこいったの?」というと、
「何言ってんの、おかあさんは昨日の昼間に帰ったでしょ」という。
「でも、トイレに連れてってくれたよ」
「そんなわけないじゃないか。変わった子だね」
これが彼の最初の霊体験だった。
ダイビングが終わってから、地元の漁師に聞いてみると、
かつてこの辺りで赤い着物を着た女性が入水自殺した
というようなことを聞いたわけではないが、
彼の言っていることは本当だろう。
客観的に考えて3つの理由がある。
1.彼がウソをついてもしょうがない。私たち他の男2人の気を
引いてもしょうがないからだ。
2.「赤い着物の女性」という具体的描写はとっさには考えつきにくい。
3.「水の中にも」の「も」という、無意識の助詞に「普段から見ている」
ことが内包されている。
3つの理由を並び立てるまでもなく、彼が見たのは本当だろう。
「見た」というのは、彼が網膜を通して見たのか、彼の脳が見たのかは
わからないが、彼の脳に何らかの刺激があったことは確かだ。
私が霊を信じるのは、なんぴとも「死んだら、はいそれまでよ」では
さびしいじゃないか、と思うからだ。
だから、あってほしい、という希望なのだ。
とはいえ、出くわしたらめちゃくちゃに怖がると思うのだが。
彼は霊を「風景みたいなもの」と言った。
見える能力があるのは、幸福なのか、不幸なのか。
とりあえず、今のところ、私はその能力を身につけるのだけは
遠慮しときたい。