居酒屋「あそこ」

街の中の看板ってけっこう目に入ってくるんですよね。
看板の中でもスナックとか酒飲み処の名前っておもしろいのが多い。
「スナック 絵美」とか、「居酒屋 みちくさ」なんてのはよくあるが、
ぼくは先日、「恩返し」というスナックを見かけた。
「いえいえ、何も恩を返してもらうようなことはしておりませんです」
とこっちが恐縮してしまいそうだ。もしかしてママさんが「ツル」と
いう名前のおばあさんなのだろうか。
「いつものところ」というのもある。こういう会話がなされることを
想定しているのだろう。
「今日、飲みに行こうぜ」「じゃ、いつもの『いつものところ』な」
「えっ、いつものいつものところって」
「いつも行ってる『いつものところ』だよ」
「ええッ?」
他には「あそこ」という飲み屋もあった。その場合はこうだ。
「『あそこ』に飲みに行こうか」「いいね。ところであそこってどこ?」
「ほら、あそこにある『あそこ』だよ」
「あそこのあそこじゃ全然わかんねえよ」
「思い出した! 『あそこ』は赤坂にあるんだった」
「それで店の名前は?」「『あそこ』だよ」
「場所を聞いているんじゃないよ。店の名前を教えろよ!」
これをやるといつまでも続くのでこのへんでやめるが、
これらの店がどうしてこの名前にしたのか、
聞いてみたいとは思わないところが不思議だ。