30年のスピーカー

16〜18日にかけて、長野県の諏訪湖に近い、
塩嶺高原の別荘地で休日を過ごした。
別荘を持っているのかって? いいえ、べっそうもない。
などと、林家木久蔵さんレベルのダジャレをかましている間に
書くことを考えてみると、ちょっと印象に残る出来事があった
ので書いてみることにしたい。
その別荘地に一軒だけポツンと喫茶店がある。
名前をPepeという。庭先に犬と猫がいて、雰囲気のいい店だ。
清潔で静かな雰囲気なのだが、入ってすぐに気がついたのは
どこからか聞こえてくる音楽だった。
テーブルについてよくよく周りを見渡すと、
店の隅に高さ1.3メートルぐらいの木箱のようなものが
置いてある。よく見ると、手製のスピーカーだった。
店のご主人に聞いてみた。
「これは30年前に友人がつくったものを譲り受けたんですよ。
中身はJBLというメーカーのもので、外側だけをつくったんです。
プレイヤーはマランス(だったかな?)というメーカーのもので
3代目になりますね。ええ、そうです、プレイヤーは代替わりしても
スピーカーはずっとこれなんです。
毎日、30年間ならしていますが、壊れるどころか、
だんだん音が穏やかになっていく気がしますね」
臨場感のある広がりのある音と、なんとも言えないやさしい音がする。
JBLは世界的な音響機器メーカーであるらしく、イベントなどでは
ボーズと並んで、よく使われるのだという。
それにしても手製でスピーカーをつくるというのは、
並大抵のことではない。
スピーカーの箱というものは、ただの箱ではなく、計算されつくした
形状になっているはずなのだ。見た目は木を張り合わせただけの
ようだが、実は相当な技術が詰まっているものと思われる。
30年前というと、ご主人の様子からして、彼がこの地で
茶店を始めた当初から使っているものなのだろう。
「100年動いたおじいさんの時計」の歌があるが、
30年のスピーカーも、ご主人とその喫茶店の歴史そのもの
なのだと思った。
ああ、そうそう、頼んだコーヒーもこだわりを感じさせる、
とても上品で豊かなコクと香りを感じさせる、おいしいものだった。
都会の喧騒を忘れさせる静かな林の中で、ゆったりとした
時間を過ごしたのでした。
すてきな思い出をありがとうございます。