2号車に乗れ!

愛知万博へは、高速の夜行バスで行った。今年の夜行バスはこれで2回目。
このバス紀行、腰が痛くなるのを除けばなかなか快適なのである。
金曜の午後11時発の便だった。
東京から名古屋に向かう客は多いらしく、1〜4号車まであり、
私は1号車の中ほどに乗り込んだ。
バスに乗って出発を待ちながら乗客は談笑し、
これからの楽しい旅路に思いを馳せていた。
とそこで、何やら外から大きな声がする。
なにやらバス会社ともめているようなのだ。
「どう考えてもおかしいだろう!」
「こっちは1時間前にきてちゃんとやってるんだよ!」
「なんだと! いいかげんなことを言うな!」
男性だけかと思ったら、女性の声もする。
「ちゃんとやってよ、ちゃんと!」
「そんなのおかしいじゃない!」
「ちょっとどうにかしてよ!」
夫婦で怒っているのだ。
バス会社の職員とのやり取りを聞いていると、どうも彼らは
同じ目的地行きの1号車と2号車のうち、1号車の席を取った
はずなのに、すでにそこには客が乗っているので、
その客を降ろして、自分たちを乗せろと言っているようだった。
バス会社の職員がバスに乗り込み、該当する席に座っている
夫婦のところに行き、チケットがミスプリントされたことを詫びて
外でどなっている夫婦に席を譲ってほしいということを
おそらく説明したようであった。
事情を理解した40代と思しき夫婦は、2号車に移って行った。
ようやく怒りのおさまった夫婦が、バスの先頭の座席に乗り込んできた。
顔はまだ怒りに満ちていた。
私はどんな顔だか見てやろうと思って見ていた。
他の乗客も前の座席越しに、エサをもらおうとする亀のように
クビを突き出して見ていた。
50歳代とおぼしき夫婦であった。
私は思った。
「2号車に乗りゃあいいじゃねえか」と。
行き先は一緒なのだ。まさか、「2号車より1号車がいいんだもん、
何でも1番がいいんだもん」とだだをこねるような年ではあるまい。
2号車の乗車位置が三里の先にあるわけではない。すぐ隣なのだ。
8秒で2号車に乗り込むことができる。
すでにバスに乗っている人を、嫌な思いをさせてまで降ろして、
自分たちが乗り込んで、何か利益があるのだろうか。
さらに、普通、夫婦というのは足りないところを補いあう関係に
なっているもので、どっちかが怒ったら、どっちかがなだめる
ものだが、彼らは例外だったようだ。
その狭量さはいったいどこから来るのだろう。
「ああ、いいですよ、いいですよ。間違えることもありますよね。
2号車に乗ればいいんですね」
これで終わりではないか。
こういう人は今、老若男女を問わず多いのである。
なんつーか、余裕のなさというか、許容範囲の狭さというか。
世の中というのはおもしろいもので、そういう人に限ってトラブルが
起きるのである。そういう性格だからトラブルを引き寄せている
とも言える。
他人への寛容さをもうちょっと持ちたい。