「迎えに来て…」
時刻は午前0時50分。
電話の先の声が尋常ではない。
いつもの元気がまったくない。
聞けば渋谷にいるという、友人からのコール。
声の感じからして酩酊状態だ。
私は深夜の甲州街道を飛ばし、年中工事中の山手通りを
すり抜け、渋谷駅に向かて車を走らせた。
こんなことは何度かあった。
いずれも私は彼の要望に応じてきた。
だが、今回は様子が全く違う。
「何かあったのか」
眠らない街のネオンを目指して、私は走った。
渋谷駅に着き、私は彼の携帯電話にコールバックした。
と、一回コールのあと、すぐにブツリと切れた。
その後、何回も電話をしてみるのだが、話し中と応答される。
時刻は午前2時を回っていた。
「呼び出しといて、どこに電話してんだよ!」と
「何かあったのかな……」という思いが私の中で交差し、うろたえた。
しかし、居場所がわからないのでは、この広い渋谷の街を
探し歩くことはできない。
結局、30分待った。
午前2時10分、私は帰宅の途についた。
翌日の夜、その友人から電話があった。
彼は窃盗に遭っていた。
だが、生きていた。無事で何よりだった。
世の中で起こっている事件は、テレビという現代社会を活写する
小箱の中だけで起こっていることではない。
誰もが自分の身の上に起こってはじめて、「まさか自分の身に起こるとは」
と、現実を理解する。ただ、今回は死ななくてよかった。
死んでから、死ななければよかったと思ってももう遅い。
そうさ、生きていれば
また何かいいことがある。