葬式のバースデーケーキ

正月に、お笑い芸人(タカ)が実の母親と一週間、節約生活をするという
番組をやっていたので見ていた。
そのお笑い芸人は33歳で、父親はすでに亡くしており、
母親と兄の他にもう一人兄弟がいるらしかった。
番組では節約生活の最後の夜に、母親が息子であるお笑い芸人に
腰のマッサージを受けながら昔話をし始めた。
「あんたが若い頃、大きな借金したことがあったよね。
おかあさん、お兄ちゃんに『あいつのためにならないから
これを最後にして、もう助けてあげたらいかんよ』って
言われて、一度だけ助けたことがあったよね。
でも、お母さん、あんたのためにはならんとわかっても
どうしようもなくて、そのあとも何度かお金を渡したことが
あったよね。
あんた、お父さんのお葬式の日のこと覚えてる?
あのときお兄ちゃん、1時間ほどおらんようになったでしょ。
みんなで周りを探したけど、見つからなかったよね。
そしたら、ひょっこり大きな箱を抱えて戻ってきた。
『今日はタカの誕生日やったろ?』って、箱の中身は
バースデーケーキだった。
私はほんとに嬉しかったよ。よう覚えててくれたって。
お兄ちゃんはちょっと厳しいようなこともあるかもしれんけど、
でもなあ、あんた、お兄ちゃんのが本当の愛情なんだよ。
お父さんはおらんようになったけど、私はあんたたち兄弟が
仲良くやってくれているから何も心配しとらんよ。
友達もたくさんいるし、何もさびしくないよ。
だからあんたも仕事をしっかりね…」
母親や兄が、このお笑い芸人を思いやる気持ちが
よく伝わってくるお話だった。
どちらも彼を思いやっての言動に、深く心を動かされた。
親子とか兄弟って、理屈じゃない。
こういう家族に囲まれて育った人なのだから、今度はその幸せを
人を笑わせるという方法でみんなにわけてもらいたいものだ。