屋根裏に住む男

昨日も書いたが、映画とか小説になるようなミステリーが
本当に現実にもあるのだということを痛感させられる話を聞いた。
ある28歳の青年が幼少のころ、父方の故郷である山口県のある島に、
父親とともに帰省したときのことだ。
父の実家は古い日本家屋だったが、その中にひとつだけ
いつも閉ざされていた、いわゆる「開かずの扉」があった。
幼少のころの彼は、子供の好奇心にまかせて扉を開けた。
すると、そこには松本城ばりの急勾配の階段があった。
平屋だから二階はない。階段は屋根裏へと続いていた。
そこには暗くてじめじめした空間が広がっていた。
屋根裏部屋ではない。ただの「屋根裏」なのだ。
ネズミも住まないその空間に、モノ音がする。
そこには彼が見たこともない、中年男性がひっそりと座っていた。
男は彼を手招きすると、耳元でこうささやいた。
「このことは誰にも言っちゃいけないよ。二人の秘密だよ」
彼は怖くなってすぐに階下に下りて行った。
彼はその島から関東の当時の住居に帰った。
家についてからどうしても彼は「秘密」をしゃべりたく
なってきてしまった。どうしても、だ。
とうとう彼は父親にあるがままを話した。
ハッと気づいたような表情をした父は、
「どうしてそれをもっと早く言わないんだ」
と彼を叱ったという。
父は電話に向かうと、すぐに実家に電話した。
父の母親と電話口でなにやら話している。
話の顛末はこうだった。
父の兄弟は4人いた。父は末っ子だった。
その家には長兄と三男と老いた母が住んでいた。
次男は1年前から行方不明になっていた。
そう、屋根裏の男がその次男だった。
彼にとって男は叔父さん、男にとって彼は甥だった。
1年間も家人に知られずに、ひっそりと潜伏生活を行っていたのだ。
いやはや、アンネ・フランクも真っ青の隠れ上手ではないか。
部屋から一歩も出ずにインターネットで注文した商品だけで一か月を
すごしたアメリカ人や、マクドナルドの商品だけで一か月を過ごした
アメリカ人はいるが、そんなものは比ではない。
3人の家人に知られないように、1年間も過ごしたのだ。
屋根裏でどうやって生活していたのだろうか。
トイレは? 食べ物は? 興味はつきない。
今度、その話をじっくり聞いてみたいと思っている。