誰も信じてくれない

箱根に近い、湯河原温泉のとある宿に泊まったときのこと。
そこは6人まで入ることができる部屋で、1泊1万8000円。
つまり1人3000円ほどで素泊まりができる。
さて、素泊まりなので、夕食をとろうと、温泉街に繰り出す
ことになった男3人。
どうでもいいけど、温泉街には「繰り出す」でなければいけない。
「出掛ける」では弱い。温泉街には「繰り出す」がよく似合う。
繰り出していった先は、とある飲食店。
「定食屋」でもないし、「中華料理屋」でもないし、ましてや
「居酒屋」でもない。メニューはラーメンから餃子、カレーまで
一通りなんでもある。
神奈川県では有名な「サンマーメン」もある。
サンマーメン」は、言ってみれば、野菜炒めにとろみが
ついているラーメンのようなものだ。
私たち3人のうち、2人はサンマーメンを。1人が焼肉定食を注文した。
店は50代とおぼしき夫婦と若い息子の3人でやっていた。
注文を聞いた息子は、両親らしき2人に
サンマーメン、つごう二丁!」と言ったのであるが、
その声が、かのミッキーマウス氏が「ミッキーだよッ!」というときの
声にそっくりだったのである。
裏声のような声で「サンマーメン、つごう二丁!」と言ったのだ。
うそではない。本当にそんな声だった。こっちには証人が2人いる。
どうしてそんな声だったのか真相は闇の中だ。
生まれつきなのか、遠方からきた若い旅人をかついだのか…。
このことを他人に話し、その声も真似て聞かせてみるのだが、
誰もが、「そんなわけあるかい!」といって信じてくれない。
誰も取り合ってくれない。
ガリレオの気持ちがちょっとだけわかった気がした。
その飲食店は不思議なことが多かった。
1.料理をつくるのは基本的に妻
2.夫は餃子を焼くのと、その鉄板をガリガリ洗うのが仕事
3.息子は注文を聞くのと、出前するラーメンにラップ
 をかけるのが仕事
4.焼肉定食は「黄金のたれ(業務用)」でつくる
5.カレーはフライパンでつくる
 もう5年ぐらい前のことだから、いまもあるかわからないが、
もう一度行ってみたい飲食店である。