あなたがいたから

暑い夏の日、厚い入道雲
青で囲まれた空に誘われ
部屋を出て、焼けたアスファルトに一歩踏み出す
神社の石段を登りきり、ざわめく街を見渡す
たばこに火をつけ、深呼吸して、
今までのことを振り返る
木陰の涼しい風が、頬をかすめていく
いつかこの場所から離れる日がくるのだろうか
また歩き出し、いつか止まるときまで歩く
それでいいのだと思えたのは、
あなたがいたから
川まで一気に歩いた
ほとりに生える雑草たちが、川の水の青に映えた
さっきすれ違った、犬の散歩をしていた人たちが
前にも一度会ったことのあるような気がした
もう一度、逢えたら
もう逢えなくても
この街は吐息をつづけるのだろう
そのままでいいと言ってくれたのは
あなただけだった
このままでいいと思ったのは
あなたがいてくれたから
蝉の林を通り抜け、一本道に出たら
なんとかやっていけそうな気がした
歩いた
あの大きな杉の木までたどり着いて、
一休みすれば、また自分の歩幅で
歩いていけそうな気がして


(このテキストはフィクションです。
実在の人物、実際の出来事とは
関係ありません。単なる筆者の
空想(妄想?)です)