魏志倭人伝に見える樹木 その1

いま雑誌はどこも苦戦中で、歴史雑誌も例外ではない。
その歴史雑誌は苦戦中の中でも古代史だけは人気があるという。
古代史は文字で残っている史料がないから、
想像で語るしかなく、素人でも手を出しやすい分野なのだという。
今に残る史料として有名なのが、おなじみ、「魏志倭人伝」だ。
中国の魏の時代に書かれた歴史書の中の「倭人」、
つまり日本人についての章である。
魏志倭人伝は2000字ぐらいなのだが、その中に30字程度、
樹木について書かれているという。
出てくるのは、タブ、クスノキ、カシ類といった照葉樹だ。
照葉樹は葉の表面がロウで塗ったようにつるつるしている樹木のこと。
具体的な樹種名としては、コナラ、カヤ、ササ、シュロ、サンショ、
ミョウガ、カエデなどの文字が見られる。
この植生に疑問を持った只木良也さんという農学博士がいる。
只木さんはなぜ松について触れられていないのかについて考えた。
植物のことを書く人が松について知らないはずはなく、
中国にも松は存在したはずだ。
ならば、なぜ松について書かなかったのか。
只木さんは、「3世紀の日本に松はなかったのではないか」と
推察する。いや、なかったというより、どこにでもある木では
なかったのではないかというのである。
(その2へ続く)