えりも岬の緑化

北海道のひし形の南端に位置する襟裳岬は、
その昔、荒廃した砂漠地帯だったという。
もとは森林がおいしげり、たくさんの昆布や魚がとれる豊かな海が
広がっていたが、明治期に入り、住人が多くなると、一変した。
薪炭を必要とした住人たちによって森の木々が次々に切り倒され、
砂漠化してしまったのだった。
森林がなくなると、表土が失われ、草も生えなくなり、砂だけが残される。
残った砂はこの地域特有の強い風に海に飛ばされ、
豊かな海もなくなってしまった。
しかし、昭和28年に国の緑化プロジェクトが始まり、
多くの地元民たちが、「緑あふれる故郷を取り戻したい」と奮闘し、
いまや青々とした緑が生い茂っている。
そこに至るまでの闘いは壮絶なものだった。
荒れ地に草を植えたが、種が風で飛ばされることを何度も繰り返した。
そのとき「ゴダ」という、その地域でとれる雑海藻を地面に敷きつめ、
草の種が飛ばされないようにした。
1970年には一面緑化されたが、植林しても木々が育たない。
冬の間に、地中にある水分が凍ってしまうことが原因だとわかった。
そこで排水溝を掘ることにした。
それがまた大変だった。凍てつく冬も住人らがツルハシを握った。
あれから60年弱が経ち、今えりも岬は見事な緑が植わっている。
栄養の豊富な水が海に流れ込み、昆布や魚も戻ってきた。
この経験を通して人々は、緑は失ってしまえば元に戻すのが
大変困難になること、緑こそが豊かな大地を育み、豊かな海をも
もたらすことを学んだ。
学んだことをぜひ後世にも伝えていってもらいたい。