アイリス

イギリスの有名な作家アイリスがアルツハイマー病にかかり、
それを夫が献身的な介護で支えるという話。
映画のストーリーはそれほど起伏に富んだものではないが、
病気が進行していく様子が的確に描かれているという点で、
アルツハイマー病を知る上で資料的な価値もある作品だと思う。
この病気は日本では認知症(痴呆症)と呼ばれることが多い。
人の名前が思い出せないといった軽微な問題から始まり、
次第にその症状が進行して行き、周りの状況認識さえあやしくなって
いくということが起こる。
いったん痴呆の症状が出ると完治するのはまれで、症状の進行を
遅らせるしかないというのが医学界の定説だと思う。
年下の夫が一生懸命に介護するのだが、あるときベッドで
ぶち切れてしまうこともある。徘徊したり、前後見境なく大声で
叫んだり、周囲の人の苦労はいかばかりかと思う。


最近、ボケを予防するという脳トレがブームだが、ある新聞記事には
「家にこもって脳トレは逆効果。人間関係を絶って一人でいると、
ボケやすい。ボケてもいいよと言ってくれる人をつくるほうが
自分のためになる」
というような意味のことが書かれてあった。
また、「ボケは老化現象のひとつ」という見方をする人もいれば、
「ボケて死ぬのは本人にとっては幸せ。だって本人はわからないのだから」
という精神科医もいる。
「ボケてもいいじゃないか」という視点は新しいが、そこには
人としての尊厳の問題がある。


劇中のアイリスは、尊厳にかけては特に強く持っていた人だった。
壊れていく自分をどのように捉えていったのか、
そこははっきりわからない。
「こうなったのも人生」などとは、どんな聡明な人でも簡単に割り切れる
わけはない。悲嘆に暮れながら、晩年をすごしたのか思うと切ない。
ただ、彼女はこの夫と出会えていたことが、
人生最大の幸福であったことは間違いないだろう。