こころからの贈り物

こんな話を聞いた。
ある26歳の女性(A子)とその彼氏のことだ。
彼女は最近になって、30代のその彼と交際を始めた。
          
彼は豪邸に住んでいて、A子さんと付き合う前に離婚歴があった。
彼はその相手と結婚したとき、相手にはすでに離婚歴があり、
子供もいた。結婚期間は一か月で、一緒に住んでもいなかった。
彼は、その前妻の子供の養育費を払っていくことになった。
彼は人が良すぎたのだ。
だから、彼の周りの人は、彼が騙されたのではないかと噂した。
          
彼は離婚してしばらくして、職場でA子さんに出会った。
お互いに惹かれあい、交際するようになった。
A子さんは、とても頭がよくて、学校ではいつもトップの
成績だった。化粧はあまりせず、最近のファッションにも
興味はない。デートのときも、60歳に近い母親の服を
借りることがあった。
お金を使うこともほとんどない。外で飲み歩いたり、
遊びに行くこともほとんどない。とにかく地味なのだ。
しかし、料理が得意で、いつも家でフレンチやイタリアンを
つくって両親に食べさせる、優しい性格である。
          
付き合い始めてから彼の最初の誕生日がやってきて、A子さんは
何をプレゼントしようか考えた。A子さんは母親に相談した。
「予算は1000円ぐらいでいいかな?」
それを聞いた母親は、「金額が一桁違うんじゃない?」と思ったが、
A子さんには言わなかった。
A子さんは500円のイチゴのパックを二つ買った。
イチゴジャムをつくりたかったのだ。
だが、鍋で熱を加える途中、イチゴを焦がしてしまった。
それでも、焦げたイチゴジャムをインスタントコーヒーの
空き瓶に詰めてラップで口をふさぎ、輪ゴムで止め、
彼の誕生日に、「焦げちゃったんだけど……」
と言いつつ彼に渡した。
それを彼は「おいしい、おいしい」と言って、食べたというのだ。
          
化粧もしない、母親の服を借りてデートに行くような地味な女性が、
彼のためを思って、一生懸命につくったイチゴジャム――。
彼女はケチなのではない。彼女の感覚からして、それが普通だった。
お金持ちの彼に贈った、本当にこころからの贈り物だ。
お金はかけなくても、自分が得意なことを生かして、手間ヒマをかけて、
A子さんはイチゴジャムをつくったのだ。
          
本当は、彼女のような感覚が普通なのかもしれない。
恋人へのプレゼントといえば、「福沢諭吉が数枚」の世界が相場だ。
その紙幣の枚数の多さで、相手をどれほど想っているかを表現し、
受け取ったほうも、それによってどれほど想われているかをはかっている。
そういう世の中だというのに、なぜこんなことができるのか。
この話を聞いたとき、私は泣いた。
こんな人が、今どきいたのかと思った。
お金の多少が問題なのではない。欲しいものかどうかが問題なのではない。
贈り物は、手間ヒマをかけたり、その人のためを思って選んだりすることで、
贈る人から贈られる人へ気持ちが伝わる。
それなのに、何もせずに「相手に気持ちが伝わらない」と嘆いていることの
なんと多いことか。
焦げたイチゴジャムでも彼が「おいしい、おいしい」と言って食べたのは、
A子さんの気持ちが通じたからだった。
なんと優しい気持ちをもった二人なのだろう。
人が人と関係するということがどういうことか、教えてもらった。
本当にいい話だった。