大変だったね 

大切な人を亡くした人に言ってあげられる言葉が
あるとしたら、どんな言葉があるのだろう。
あるときそんな場面に出くわして、
「こんなときなんて言えばいいんだろう」
と考え込んでしまった。
また、流産を経験した女性や、離婚を経験した人、
病気で苦労したり、つらい失敗をして激しく落胆して
いる人に、何と言ってあげればいいのだろう。
気安く言った言葉が、どんなに人の心を深く傷つけるかを
身をもって体験する年齢に、自分がなってきた。
そういう人を前にすると、いつもかける言葉がなく、
途方にくれてしまう。
黙っていれば自分は楽だ。けれども、その人となんらかの
人間関係を、これからも結ぼうと希望するのなら、
逃げないで、何か言うべきではないのか。
相手は傷つき、自分も傷つくかもしれないが、
何か会話を交わすほうが、思わせぶりに黙っているより
よっぽどいい。
人のことを根掘り葉掘り詮索するのではない。
ただ、「あなたの身の上に起こったことに無関心ではない」
という態度は、少なからず、その人の癒しになる。
自分ならばどう言ってほしいだろうか。
私なら、一言だけこう言ってほしい。
「大変だったね」と。
大変だったねと、言ってくれればそれでいい。
だから、相手にもそうする。
そして、時間がたって心の整理がついたときに、
溜まってどこかに流れ出たがっていた感情の疼きを
解き放つような路を付けたなら、こちらから聞かなくても
相手は勝手に話し始めるものだ。
水が高きから低きに流れるように。
「大切な人を亡くしたんだってね、大変だったね」
「離婚したんだったね、大変だったね」
「病気されたんだってね、大変だったね」
それだけで、どれだけ癒されるか。
大変だったね、わかるよ。
いまは時間が経つのを待てばいい。
そして、気が向いたら、話を聞かせてください。