スイッチ

隔週でやっているあるお笑い芸人のライブに
よく行っている。
今日も会社を追えてダッシュで会場に向かった。
客は10人だった。
ぼくは、彼らはおもしろいと思うのだけど、
500円の入場料でも彼らの芸で笑いに来よう
という人はあまりいないらしい。
7時から1時間半のライブが終わるころ、
彼らコンビの一人が今年の抱負について
語り始めた。
「おれら、絶対今年売れてやる!絶対に!
見てろ!いっぱいテレビ出てやる!」
と一気にまくしたてた。すごい迫力だった。
ひとしきり、自分たちの決意を語ると、こう言った。
「すいません、みなさんが来てくれてうれしいから
ちょっとテンション上がってきてしまいました。
みなさんも苦労していると思うんだ。わかりますよ。
みんな苦労してるに違いないんだ。ほんと、ありがとう
ございます。ぼくら、がんばりますんで」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥のほうから思わず、
こみあげるものがあった。
「苦労しているのがわかるから」
スイッチを押されたようだった。
彼らがぼくの何を知っているというわけではない。
たぶん、誰かにそう言ってほしかったんだな。
「わかるよ」って誰かに言ってほしかったんだなと思う。
他人から見たら「なんでそんなことで」ってことで
苦しむ。わかっているけど、それでも苦しみは消えない。
どうすればいいか、わからなくなるときがある。
怖くなって、何も考えないように、目を閉じ、耳をふさぐ。
誰にもそんなときがあるだろう。
もっと強くならなきゃいけないなと。
こんなことを何度も経験して強くなっていくのかなと。
今年は絶対やってやるって、今は思えないけれど、
少し休んでまたゆっくりやりたいな。
あのお笑い芸人に負けないように。