本当の色って?

深海生物の本をつくったことがある。
本が完成するというとき、色校という印刷物の色が
ちゃんと出ているかどうかを確認する原稿が出てくる。
この色校の話をしていたとき、編集者さんが
「本来の色が出ているかどうかチェックして」
というのだが、「本来の色」について考えこんでしまった。
深海生物の本来の姿は、深海にいる状態のときのものだ。
深海は1000メートルより深くなると、
まったく陽の光が差し込まず、漆黒の闇となる。
ということは、そこに棲む生物には目がなく、
したがって色も感じない。
だから、彼らが色を意識することはない。
色は私たち人間が意識しているに過ぎない。
目が見えない深海生物たちにとっての「本来の色」
というものは存在しない。
そして、私たちが水族館の水槽で見る深海生物は、
いろんなライトの色を当てているので、
それらが本来の色ではない。
やはり人間側から見た「深海生物の本来の色」は、
可視光で見たときの色になるのだろう。
でもそれは飽くまで人間側からの論理。
深海生物からしてみれば、色はさほど重要ではない
ということになるだろう。
それどころか、目さえも重要ではないということになる。
目が見えないことは、生物にとってさほど
たいしたことではないのかもしれない。