『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』

『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』という本は、
建築士である著者の坂口氏が、路上生活者から生活の術を授かったことを
契機に、「家」というものを、既成概念なしに考察してみた本である。
フリーミアムという言葉が流行ったけれど、
それはビジネスの上で無料をいかに利用するかということだった。
しかし、この本は無料で生活する方法に触れている。
それは都市から湧き出るように実をつける資源を採集することによる。
私も昔、ホームレスの世界を垣間見たことはあるが、
ここまで進化しているとは思わなかった。
路上生活者たちは脳をフル回転して、不動産を買わずに「家」に住み、
もらうだけで生命維持している。
なかには情報を売るだけで、周りから食べものやお金が集まっている。
これはもう彼らが路上生活者であるというだけで、
一般社会となんの変わりもない。
著者が「都市の幸」と呼んでいるものは都市から出る無数のゴミである。
見えてくるのは「飽食ニッポン」「贅沢ニッポン」であるのだが、
読んでいくと、「家」という概念以外にも思い当たることがある。
たとえば、さっきの情報屋は情報を仲間に与えることで、
対価として食べものやお金を得る。
私の知っている例でいえば、元すし職人はすし店でもらってきた
くずのすしを握りなおして、仲間に分けている。
元理容師は仲間の髪を切りそろえることで食べものを分けてもらう。
ガソリンやソーラーパネルで発電できる人は、
他の人のバッテリーに充電させてやることで食べものを得る。
このように、路上生活者が一定の規模で集まれば、
そこにはコミュニティが出来上がり、相互扶助ばかりか、
1つの村を形成することができる。
社会的側面を見れば、現代社会が失った人間的つながりを、
彼らは自分たちの都合の良いように構築している。
合理的で効率的で、それでいて個々の自由が確保されている。
この路上生活者たちのコミュニティはだんだん強固になっている気がする。
人嫌いでそうした生活をする人もいるが、それはごく一部で
やはり人間は人と関わることでこそ、らしく生きられる。
この著者の他の著作も読んでみたいものだ。