『これからの「正義」の話をしよう』

ハーバード大学の教授、マイケル・サンデルによる大人気の
哲学授業を書籍化したのが『これからの「正義」の話をしよう』だ。
彼の授業はNHKでも放送され、話題になった。
哲学というと難しい響きがあるが、現実に起こった事件や出来事を
題材にして、「正義」について考えを深めていく。
現実の事件や出来事を、功利主義リバタリアニズム自由至上主義
といった、アメリカ人を代表する考え方を例に出し、解説する。
議論の最後に誰もが納得する結論があるわけではない。
そもそも扱っている事件や出来事は、適法か違法かはあっても、
答えの出ないものである。
私が印象に残ったのは、夫の精子体外受精させ、
代理母の子宮で育て、出産させたという出来事だ。
裕福な子どものいない夫婦と、貧しい子どものいる夫婦との契約。
そこには互いを引き合わせる仲介業者も絡んでいた。
一方はお金を提供し、一方は身体を提供したのだった。
うまくいき、出産となったが、そこで問題が起こった。
代理母が、赤ん坊を引き渡したくないと言ったのだった。
そこで、赤ん坊の父親は裁判に訴えた。
この状況の中で、正しいのは誰か。
約束は約束だから、父親が正しいという意見もあれば、
貧しさが母親に契約をさせる圧力になっており、真の意味での
自発的な契約とはいえないという意見もある。
どちらの言い分もわかるだけに悩むところだ。
ひとついえるのは、誰にも言い分があって、それが感情から出たもの
であったにせよ、その言い分は一定の合理性があって、
それぞれの言い分が反目する場合は両者が折り合う妥協点を
見出すしかないのではないかということ。
そうした考えのベースとなるものは、お金による損得や自由ではなく、
「人が幸福になるためにはどうするか」でしかないのだと思う。
少し難しいが、否応なしに頭を鍛えられる本である。