『デフレの正体』 

『デフレの正体』というタイトルのこの本、なぜデフレになるのか
ではなく、景気はどのようによくなったり悪くなったりするかを
人口動態から説明したものである。
たぶん、景気の良し悪しはいろんな要因があるけれども、
もっとも影響が大きいのが人口、それも15歳から64歳までの
生産年齢人口の減少であるとして、全編でそれを貫いている。
「結論は新しくないが、結論に至る過程が新しい」パターンの典型。
結論はわかっていても、ミステリー仕立てというか、結論を先延ばしに
して読者の興味を引く手法は講演をそのまま本にしたにしては
けっこう効き目があるように思う。
おもしろいのは、「私が言っているのではなく、そういう数字が出ている」
「私がいったのではなくて、誰それがすでに言っている」と書いてること。
普通は「こんなことは誰も言っていないですよね」と自説の目新しさを
強調するのだが、それをやっているのはただ一点、
「空気を読む(KY)でなく、数字を読みましょう(SY)」ということ。
白書の数字はご存知の通り、各省庁が予算分捕り合戦に使うツールで
あるので、それ以外の国勢調査など、客観的に信用に足る数字を
主に用いている。
非常におもしろい説だし、すべてとはいわないが、そういう側面も
少なからずあるのだろうというある一定の理解はできた。
ただ、デフレになるメカニズムの正体は解説されていないし、
高齢者から若年子育て世代に所得移転せよとか、イタリア、フランス、
スイスのようにブランド価値の高いものをつくって売るべし、
高齢者に消費してもらい、国内で金を還流させよという
デフレの打開策についてはもうひとつ迫力に欠けている。
おそらく、続編でこれらのことは触れることになるのでしょう。
ただ、実数で見なければいけない場合と、パーセントで見なければいけ
ない場合とよく考えないと、簡単に勘違いして間違った結論を
導いてしまう危うさを指摘していて、勉強になる部分も多々あった。
さらに、この本を読んで、高齢者が働かなくなり、年金を得るように
なることのインパクトは思ったよりも大きいのだということ気づいた。
考えてみれば、いま800万人とも言われる団塊世代が徐々に
リタイアし始めているけれど、彼が少なく見積もっても30万円稼いで
いたものが、20万円の年金をもらうようになるのだ。
50万円ものギャップが生じる。これが何百万人にもなると
ものすごいインパクトになる。
いざというときのため、手元に貯金している高齢富裕層が
お金を使わないために内需が停滞していると本書では断じている。
この将来不安を解消する年金など社会福祉の制度設計については
ほとんど触れられていない。著者が専門外なのだろうけれど、
内需を拡大するにはこの将来不安の解消がキーポイントで、
だからこそ民主党年金一元化などの手を打とうとしているわけだ。
将来の不安が解消されなければ、たとえ相続税を100%にしたり、
贈与税を0%にして、親から子へ財産を移転しても、子どもも将来に
不安を抱えて貯蓄するだろう。
アメリカみたいにジャンジャン借金して消費するのは論外だけど、
世の中が資本主義で回っている以上、自分だけが生き残ればいい
というのではなく、まっとうなものやことに対してはまっとうなお金を
払うということでないといけないのだと思う。
そういうことを考えさせてくれただけでも、
一読してよかったと思える本であることは確かだ。