クリスマスに思い出す話

街は本格的なクリスマスモード。
あの電飾を見ると、思い出す話がひとつある。
この話を書くのは2回目ですが、何度書いても考えさせられます。


ジョン・ピアポントというアメリカ人男性の話である。
『気がついた時には火のついたベッドに寝ていた』という本の
著者ロバート・フルガムはこの本のなかで紹介している。


ピアポントは1866年に81歳で亡くなるまで
いくつもの職業を転々とし、そのどの職業でも成功を
収めることができなかった。
最初に教師になったが、生徒に優しすぎた。
次に、弁護士になったが、正義にこだわりすぎるあまり失敗した。
次に、織物商の仕事をしたが、商品に儲けられるほどの値段を
つけることができなかった。
次に、書きためていた詩が出版されたが、
印税でもそれほど儲けることはできなかった。
次に、神学校で勉強したのち牧師になった。
ある教会の牧師に任命された。
しかし、禁酒令に賛成し、奴隷制度に反対する立場が、
信徒の有力者の意見と食い違い、むりやり辞任に追い込まれた。
それで今度は、政治家になろうと考え、マサチューセッツ州の知事に
奴隷制度廃止党から立候補したが、落選した。
次に連邦議会の選挙に出馬したが、そこでも選挙に勝てなかった。
南北戦争が始まると、従軍牧師に志願したが体力が続かなかった。
このときもう76歳になっていた。
彼の生涯の最後の5年間は、ワシントンDCの一政府職員を
文書整理係として勤めあげた。だが、彼の心はそこにはなかった。


彼の人生はこれだけではなかった。
彼の偉大な功績を後世の人々に残した。
世界中の何億という人々が知っている歌をつくったことだ。
「雪が降った夕暮れに馬に引かれたソリに乗り、ベルを鳴らして走ろう、
友だちと一緒に笑いながら歌いながら、ベルを鳴らして走ろう」
やったことがなくても誰もがその楽しさ、喜びを共感でき、
クリスマスの夜にみんなで歌える歌。
そう、ピアポントは『ジングル・ベル』をつくったのだ。


ロバート・フルガム氏は言う。
「今日から見れば、誰もが彼は本当に失敗したわけではなかったと言う
だろう。社会的な正義の実現へ向けての努力、誠実な人間でありたいと
いう願い、自分の時代の重大な問題への積極的な関与、人間の理性の力
に寄せる信頼――これらは失敗とは言えない」


彼はある雪の午後、家族や友人、信徒へのちょっとした贈り物として
この歌を書いた。
人生の辛酸を味わい尽くし、他人からすれば失意のうちに幕を閉じた
ように見える彼の人生は、しかし、失敗ではなかった。


自分の人生という旅路の果てに
あとに続く人たちに残すものが
もしあるのだしたら、
このようでありたいと
電飾された町の片隅でふと思う。