アメリカ旅行⑧ 安全とは

アメリ旅行記は1月4日から8回に渡って書きます。


ニューヨークは、1994年にジュリアーニ氏が市長になってから、
劇的に治安が改善したと言われている。
それで有名になったのが、「割れ窓理論」という環境犯罪学上の理論である。
ビルの窓がひとつ割れていると、ほかの窓も割られるということから、
軽微な犯罪も徹底的に取り締まることで、治安を改善させるというやり方だ。
これは日本の都市でも実践されていて結果を挙げている。
現地ガイドが「もはや日本より安全ですよ」と言うのだが、これをどうとらえるか。
たしかに私たちは安心してニューヨークのメトロに乗れた。
けれど、マンハッタンと日本を比べるのは無理がある。新宿とマンハッタンを比べるなら
意味があるし、マンハッタンのほうが安全といえばその通りかもしれない。
でも東京とニューヨークというなら、東京のほうが安全かもしれないし、
アメリカと日本では絶対日本のほうが安全だと思う。
何しろ、アメリカでは年間に一万人以上が銃で死ぬんですからね。日本の100倍です。
と思って、日本に帰ってきたら「バラバラ殺人」の報道ばかり。こういうのを断片的に
見聞きする海外の日本人は、「日本は安全でなくなった」と感じてもおかしくない。
ジュリアーニ氏はホームレスの対策もしたらしい。
施設に収容し、労働を斡旋した。
だが、ニューヨークにもホームレスはいた。
私が見かけたのは比較的若い人たちで、人通りの多い道の隅に膝を抱えて座っていて、
顔を伏せ、「I am hungry」「no job」「no money」「give me money」などと
書かれているダンボール紙をたてかけている。
荷物は少ないようで、ほとんど体ひとつといった感じだ。夢を持ってどこからかやってきた
が、思うように行かず力尽きかけているといったふうだった。
マンハッタンも地価は高い。昔、ジョンレノンが住んでいたというアパートは、
いまは12億円の値がついているのだそうだ。
住宅事情は日本と似ていて、マンハッタン島に住めるのは比較的裕福な層であり、
その他の人たちは公共の交通機関を利用してやってくる。その主要なものがバスだ。
最後の日にニューアーク空港に向かって朝8時ごろマンハッタンを出たが、
反対の斜線では通勤バスが数珠繋ぎになっていた。
その列は長く長く、どこまでも長く続いていた。
マンハッタンに住めない人たちは郊外からバスでやってくる。
マンハッタンの「ボリューム」を実感するという意味では、エンパイアステートビル
夜景と、この通勤バスが象徴的だろう。
日本には、11日の午後3時ごろ到着した。
長いようであっというまの8日間だった。


成功を求めて多くの人がアメリカにやってきた。
アメリカンドリームを求めて、いっそのことニューヨークへと
思ってやってきた人もいただろう。
建国から数百年たったこのアメリカで、その「成功」の定義はどう変わったのだろうか。
それとも変わっていないのだろうか。
高層建築で覇を競っていたころのニューヨークの成功の定義は間違いなく、
富を成すことだった。それから何十年か経って、何か価値観が揺らいだのだろうか。
それを感じとるには、6泊8日の旅行ではあまりにも短い。
ただ、わかったのは、日本の裏側でも何かしてもらったら「ありがとう」を言い、
迷惑をかけたら「ごめんなさい」と謝り、思いやりを持って生きている人がいるのだ
ということ。
あとは、そう、映画を見て「あっ、ここ行ったことある!」という場所が
できたのも収穫だった。

アメリ旅行記 おわり